留念吟得◇萬首 詩詞選集

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六萬首選 一首

「漢詩を創ろう」(http://tosando.ptu.jp/)投稿作

  新譜・裁詩六萬首開懷   2021.11.24 -60000

正光陰如箭中詩神,    正に光陰の箭が詩神に中(あた)る如く
呻吟廿四年。       呻吟して廿四年。
莫笑非才,        笑ふ莫れ 非才の,
戀慕繆斯,        繆斯(ミューズ)に恋慕し,
六萬首成篇。       六万首 篇を成すを。
喜空想自由,       喜びしは空想の自由,
寓情於景,        情を景に寓(よ)せ,
超今越古,        今を超え古へを越え,
覆海又移山。       海を覆がへし また山を移す。
   ○             ○
揮夢筆,         揮ひし夢の筆,
潤玉杯,         玉杯に潤ひ,
化靈鶴,         霊鶴と化し,
張翼舞瑤天。       翼を張りて瑶天に舞ふ。
仰圓月、桂殿明輝,    円かなる月を仰げば、桂殿 明るく輝き,
見孀娥、孤影依欄。    見き 孀娥の、孤影の欄に依るを。
笑迎青眼勸霞漿,     笑みて迎えし青眼の 勧めたる霞漿,
滌洗紅塵盡清歡。     紅塵を滌洗して清歓を尽くす,
窗外銀河噴撒,      窓外の銀河 噴き撒(ち)らす,
星屑若飛泉。       星屑を飛泉のごとくに。
          (中華新韻八寒平声の押韻)

<解説>
呻吟:吟詠する。苦吟。
寓情於景:四字成語。情を託して景を描写する。神遊:心の中の旅。空想の旅。超今越古:四字成語:古今を超越する。
覆海移山:大海をひっくり返し大山を動かす。力量の巨大なるを形容。
夢筆:夢の中の筆。才思の敏捷,文章の華美を比喩。靈鶴:鶴のこと。瑤天:天の美称。
霞漿:仙界の飲み物。紅塵:俗世の塵。星屑:星くずのこと。日本語だが中国語にも用例もある。飛泉:滝。

 漢詩作りを始めて24年と8カ月、2021年11月、拙作の数6万首に達しました。
 詩がおよそ1万4千首、詞曲が2万首、残りは漢俳や曄歌などの現代短詩です。
 なお、現代短詩も詩詞と同様に、平仄と押韻、つまりは韻律を考慮して詠んでいます。

 漢詩を始めたのは、一年ほど中国語を学んでいて四声の習得に苦労していたからです。
 漢和辞典を引いていて七言絶句に平仄と押韻を記した詩譜というものがあることをたまたま知り
 平仄と押韻に親しみながら漢詩を作れば、楽しみながら四声を学べるので一挙両得
 と考えたからです。
 もともと漢詩に興味があったわけではありません。

 しかし、平仄に苦しみながら漢詩を作っているうちに
 声調の習得もさることながら
 自由に思うのではなく、平仄に合わせて考える
 ということが面白くなりました。
 私はつまらない人間です。
 そのつまらない人間が自由に考えたとして、つまらないことしか思い付きません。しかし
 平仄に合わせる都合で当初の考えとは違うことを考えてみる すると
 当初は思いもしなかった考え 発見 気付きにたどりつくことがあります。
 所詮はつまらない人間の発見や気付きであり、ひと様から見ればやはりつまらないことかも知れませんが、
 本人にとっては眼から鱗。妙想天開 面白いです。
 それでついつい漢詩作りにのめり込んでしまいました。

 平仄、始めはとても大変でした。
 最初の絶句は1997年4月に詠みましたが、二週間かかりました。
 当時50歳、この調子では生涯に三百首が詠めればよいか、と思っていました。
 いつ死んでもおかしくないので、そう思っていました。
 しかし、考えを平仄に合わせて変えることに慣れてくるにつれ
 また、どうすれば効率よく作詩が楽しめるかを工夫するにつれ
 作詩数は飛躍的に増えました。
 漢詩を始めて6年目の2002年以降は毎年2000首以上を詠んでいます。

 詩はもとより数ではありません。
 詩を作ろうと思う以上、良い詩作りをめざし、努力と研鑽を積むべきかも知れません。
 しかし、私は

1 50歳を越えているので、いつ死んでもおかしくない
2 中国語の読み書き、会話について、まともな教育を受けていない
3 漢詩、漢籍について、まともな教育をを受けていず、知識もない
4 平凡な人生を送ってきたので詩情に乏しい

 そういう日本人です。
 良い詩を作るということは、私には高嶺の花です。
 そこで、そんな日本人が詩作りにおいて
 どこまでやれるか、どこまで楽しめるか
 ということに闘志を燃やし。平仄と押韻に熟練するため、多作に励みました。
 そして、私の代表作は、作詩数だと嘯いています。

 さて、その6万首達成記念の拙作ですが、絶句・律詩・詞のほかに詞の新譜を三首ほど詠んでいます。
 新譜は、既存の詞譜に依らずに私が考案した詞です。
 とはいえ、まったくの無から詞譜を作り上げたものではなく、上掲作は
 『八聲甘州』の詞譜をベースに、『水調歌頭』『沁園春』の句法を参考にして詠んでいます。

 以下、詞譜。ご参考まで。

 拙作新譜 詞譜・雙調101字,前段十句,三平韻,後段十句 四平韻
  ●○○○●●○○(一七),○○●●平。●●○○,●●●○,●●●○平。●○●●○(一四),●○○●,○○●●,○○●●,●●●○平。
  ○○●,●●○,●○●,○●●○平。●○●、●●○○,●○○、○●○平。●○○●●○○,○●○○●○平。○●○○○●,○●●○平。
   ○:平声。●:仄声。
平:平声の押韻
  (一七):前の八字句は,上一下七に作る。
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。

 八聲甘州 詞譜・雙調97字,前後段各九句,四平韻 柳永体
  ●△○▲●●○○(一七),▲△●○平。●△○△●(一四),△○▲●,△●○平。▲●△○▲●,▲●●○平。△●△○●,△●○平。   ▲●△○△●,●▲○▲●(一四),△●○平。●△○△●(一四),△●●○平。●△△、△○△●,●▲○、△●●○平。○○●、▲○△●,▲●○平。
   ○:平声。△:平声が望ましいが仄声でもよい。
   ●:仄声。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
   平:平声の押韻
  (一七):前の八字句は,上一下七に作る。
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。

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五萬首選 五首 『漢詩を創ろう』投稿作

1  五律・學詩二十年裁詩五萬篇

刻苦二十年,   苦を刻んで二十年,
裁詩五萬篇。   詩を裁いて五萬篇。
繆斯憐贅叟,   繆斯(ミューズ)贅叟を憐れみ,
夢筆走雲箋。   夢筆 雲箋を走れり。
春賞櫻花好,   春には櫻花の好きを賞(め)で,
秋題山月妍。   秋には山月の妍なるを題とす。
四時登筆路,   四時 筆路を登り,
終老喜遊仙。   老いを終(すご)すに仙に遊ぶを喜ぶ。

          (中華新韻八寒平声の押韻)
<解説>

 1997年4月に漢詩作りを始めて20年と8月弱、拙作5万首に到達しました。
 その内訳は、およそ半数が伝統的な詩詞で
 絶句が約9300首
 律詩が約1800首
 詞曲が約14200首。
 残りの25000首弱は、その詩体が現代に始まったもので
 日本の俳句と関連がある漢俳や曄歌、小生が考案した短詩などです。
 それらの短詩を小生は韻律(押韻と平仄に関わる規律)に従って詠んでいます。

 詩はもとより数ではありません。
 生涯に一作だけ満足のいく作品が詠めればよいと思います。
 そこで、もし一作だけ代表作を自選するとすれば、
 私は、上掲の作を選びます。
 よい詩が詠めたとその時は満足した経験は何度かありますが、
 上掲の拙作にもその達成感はあります。

 私は詩を学び始めてかなり早い時期から多作を目指しました。
 詩を作る喜び、その自由を満喫するためには
 漢詩では韻律に通じることが近道だと考えたからです。
 そして、韻律すなはち押韻と平仄に関する規律に通じるには、
 学習と練習が一番と考えました。
 そこで、多作に励み、
 平仄と押韻の肉体化に専心してきました。
 中国人の詩友から、拙作は詩詞のカンフーみたいだ
 と言われたこともあります。

 小生の作詩数は確かに詩魔とのカンフーの結果です。
 内容はともかく、私のカンフーは、
 形式遵守と数のおかげで
 中国語を母語とする詩人たちに較べても遜色のないレベルに達せたと思います。

 世界には多くの言語がありそれと一体となった詩がありますが
 漢詩の韻律には
 中国語を母語とせずとも漢字を学びさえすれば詩が書ける、
 そういう勝れた特質、普遍性があります。
 拙作の数はそれを証明するものでもある、と思っています。

<感想>

 鮟鱇さんの膨大な作詩群の中の一部しか私は拝見できていませんが、平仄や押韻を自在に駆使するだけで五万首作れるわけではありませんから、五万の詩篇のバックボーンに更に膨大な詩情を蓄えていらっしゃり、そのためにまた膨大な学習を経ていることがわかります。

 詩中の「繆斯」は鮟鱇さんの作品に何度も登場するギリシア神話の藝術の女神、「夢筆」は中国の故事、優れた才能の比喩にもなりますが、「夢に現れて素晴らしい作品を作らせてくれる魔法の筆」というところで、西洋の「繆斯」に対しての東洋の文学の神様を配した形ですね。
 「贅叟」は「贅翁」とも使われますが、「世を離れた気ままな老人」ということでしょう。

 「筆」字の重なりはありますが、全句に鮟鱇さんの韻律感覚が感じられ、五言詩らしいリズム感の良さが伝わりますね。

 2018. 2. 8                  by 桐山人


2  水調歌頭・刻苦二十年吟得五萬篇        

贅翁學韻事,     贅翁 韻事を學び,
刻苦二十年。     苦を刻んで二十年。
雪窗螢火,      雪窗螢火,
刀筆削寢忘三餐。   刀筆 寢るを削って三餐を忘る。
八斗杯觴買醉,    八斗の杯觴に醉ひを買ひ,
七歩詩詞賣老,    七歩の詩詞に老いを賣り,
五萬首成篇。     五萬首 篇を成す。
感謝繆斯笑,     繆斯(ミューズ)の笑みに感謝し,
得意仰青天。     意を得て青天を仰ぐ。
     ○                ○
調平仄,       平仄を調へ,
押風韻,       風韻を押し,
走雲箋。       雲箋を走る。
現實無趣,      現實には趣き無く,
空想自在易遊仙。   空想は自在にして仙に遊び易し。
春入櫻雲鶯囀,    春には櫻雲に入りて鶯のごと囀り,
秋戀嫦娥蛩訴,    秋には嫦娥に戀して蛩(コオロギ)のごと訴へ,
騷客聳吟肩。     騷客 吟肩を聳やかす。
何怕長嘶處,     何んぞ怕(おそ)れん 長く嘶く處,
馬齒受冬寒。     馬齒の冬寒を受くるを。

          (中華新韻八寒平声の押韻)
<解説>
 拙作5万首目の記念作は五言律詩にしましたが、いささか物足りず「水調歌頭」でも詠んでみました。
 「水調歌頭」の詞譜は次のとおりです。

 水調歌頭 詞譜・雙調95字,前段九句四平韻,後段十句四平韻 毛滂
  ▲△△▲●,▲●●○平。△○○●,△▲○●●○平。▲●△○△●,▲●▲○△●,▲●●○平。△△▲○●,▲●●○平。
  △△▲,△△●,●△平。△○▲●,△●▲●●○平。△●△○▲●,△●△○▲●,△●●○平。▲●△○●,▲●●○平。
   ○:平声。△:平声が望ましいが仄声でもよい。
   ●:仄声。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
   平:平声の押韻。(拙作は中華新韻八寒)

<感想>
 ああ、確かに五万首の記念としては、字数の差もあるでしょうが、こちらの方がお気持ちがよく出ていますね。
 結びの「馬齒」は「馬齢」と同じで謙称ですが、まだまだ五万首では終らないぞ、という意志も伝わってきますね。

 2018. 2. 8                  by 桐山人


3  高平探芳新・裁詩二十年吟得五萬篇        

硯池邊,       硯池の邊,
有贅翁遐想,     贅翁の遐想する有り,
欲騎柔翰。      柔翰(毛筆)に騎(の)らんと欲す。
鼓翼行空,      翼を鼓して空を行き,
單嚮朝陽暉煥。    單(ひたすら)嚮(むか)ふ 朝陽の暉煥(かがや)けるへと。
乘風韻,       風韻に乘り,
求妙趣,       妙趣を求め,
舞雲箋,       雲箋に舞ひ,
穿夢幻。       夢幻を穿つ。
遇飛仙,       遇へり 飛仙の,
堪追尾,       追尾するに堪へ,
竟到蓬莱文苑。    竟(つい)に蓬莱の文苑に到るに。
     ○                ○
遊目詞華絢爛,    詞華の絢爛たるに目を遊ばせ,
賞麗蕊生香,     賞(め)づるは麗蕊の香りを生じ,
花心競艷。      花心の艷を競ふなり。
以致非才,      以って致(いた)るに非才,
容易吟魂舒展。    容易に吟魂を舒展す。
餐烟霞,       烟霞を餐(くら)ひ,
傾玉酒,       玉酒を傾け,
二十年,       二十年,
詩五萬。       詩は五萬。
廢甘眠,       甘眠を廢し,
揮禿筆,       揮へる禿筆,
潤黄金盞。      黄金の盞に潤ふ。

          (中華新韻八寒平声の押韻)
<解説>
 拙作5万首目の記念作は五言律詩にしましたが、いささか物足りず「水調歌頭」に加え「高平探芳新」でも詠んでみました。
 「高平探芳新」の詞譜は次のとおりです。

 高平探芳新 詞譜・雙調93字,前段十二句一協韻四仄韻,後段十二句五仄韻 呉文英
  ●○平協●●○○●(一四),●○○仄。●●○○,○●○○○仄。○○●,○●●,●○○,○●仄。●○○,○○●,●●○○○仄。
  ○●○○●仄,●●●○○(一四),○○●仄。●●○○,○●○○○仄。○○○,○●●,●○○,○●仄。●○○,○○●,●○○仄。
   ○:平声。●:仄声。平:平声の押韻。(拙作は中華新韻八寒)
   (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,一・四に作る。

 「高平探芳新」の詞譜は△(平声が望ましいが仄声でもよい)と▲(仄声が望ましいが平声でもよい)が全くありません。
 このような場合、平仄の規則(二四不同、二六同、一三吾不問)を遵守しさえすれば、多少は変えてもよいと思いますが、
 小生は、言葉のスポーツのつもりで、〇●を厳守しています。

<感想>

 水調歌頭の方が人間界の鮟鱇さんとすれば、こちらは同じ詞でも、既に仙界に遊ぶ趣で、詩作に耽る楽しい姿が描かれていますね。
 どちらも鮟鱇ワールドという感じで、嬉しくなります。
 全体の字数は変わらないけれど、句数が異なることで、リズム(正しくはメロディでしょうか)が変わってきて、そのあたりが詞譜選択につながるのでしょうか。

 2018. 2. 9                  by 桐山人


4  七律・裁詩二十年吟得五萬篇 2017.11.14 -50005

凡才刻苦二十年,   凡才 苦を刻んで二十年,
寫了詩詞五萬篇。   寫了(書けり)詩詞五萬篇。
春賞櫻花扮鶯哢,   春には櫻の花を賞(め)でて鶯の哢るに扮し,
秋題月鏡競蛩喧。   秋には月鏡を題として蛩(こおろぎ)の喧しきと競ふ。
古來筆路通霞洞,   古來 筆路は霞洞に通じ,
今至竅門開曉天。   今に至って竅門(秘訣の門)は曉天へ開く。
厭倦現實無興趣,   現實の興趣なきに厭倦し,
游魂張翼友飛仙。   魂を游ばせ翼を張って飛仙を友とす。

        (中華新韻八寒平声の押韻)

<解説>
 拙作五萬首達成の記念は五言律詩で詠みましたが、七言律詩でも詠んでみようということで上掲作を書きました。
 実は二萬首達成の記念で2006年に詠んだのが下載の七言律詩、
 そこで五萬首目は五言律詩にしたのですが、
 出来ばえでいえば五萬首の五律・七律よりもこちらの方がよいように思えます(ただ、韻字の才と材が同音。これは避けるべきです)。
 当時は投稿させていただかなかったので、この機会に付記させていただきます。

  七律・九年吟得二萬首詩詞     2006. 7.29 -1992

詩魔一日抱琴來,   詩魔 一日 琴を抱きて來たり,
附體田翁乏雅才。   田翁の雅才の乏しきに附體せり。
落戸九年教韻事,   落戸(住みつく)の九年 韻事を教へ,
侑觴八斗洗塵埃。   侑觴(觴をすすめる)の八斗 塵埃を洗ふ。
尋幽隨處景堪賞,   幽を尋ぬれば随處に景は賞(め)づるに堪へ,
覓句含情聯自排。   句を覓(もと)むれべば情を含んで聯自ずから排(なら)ぶ。
莫笑老殘吟不厭,   笑ふ莫れ老殘 吟じて厭(あ)きず,
聳肩高唱坐棺材。   肩を聳やかして高唱し棺材に坐しをるを。

          (中華新韻四開平声の押韻)
<感想>
 先日、久しぶりに私の漢詩の先生のところに伺いました。
 日頃ご無沙汰ばかりで申し訳ない限りなのですが、その折に先生が「一日三首作詩することを日課としている」と仰っていて、まもなく米寿をお迎えになる先生の変わらぬ創作意欲に頭が下がりました。
 私は、先生の前でただただ小さくなっていました。

 その時に先生が「一日三首作れば、一年で約千首だよ」と仰ったのは怠け者の私に目標設定の大切さを諭して下さったのだと思いますが、私も20年先に先生のように毎日詩が作れる伎倆を身につけ、豊かな詩情を保持するために、精進したいと思いました。
 先生も鮟鱇さんも、私の詩人生の目標です。

 二万首と五万首の七律を読み比べると、二万首は「詩魔」に出会えた喜びと高揚感が感じられますし、五万首はその詩魔を飼い慣らしたというか、自在、ほとんど仙境に入りびたりという感じですね。
 どちらも鮟鱇さんの記録となる良い詩だと思います。

 2018. 2. 9                  by 桐山人


5  六州歌頭・裁賦二十年吟得五萬首 2017.11.22 -50055

人無譽聞,       人に誉聞なく,
晩境有清游。      晩境に清遊あり。
傾緑酒,         緑酒を傾け,
交紅友,         紅友と交わり,
坐金秋,         金秋に坐し,
擧白頭。         白頭を挙ぐ。
靈液洗塵垢,      霊液 塵垢を洗い,
滲肌肉,         肌肉に滲み,
風入袖,         風 袖に入り,
雲涌岫,         雲は岫に涌き,
聲出口,         声は口を出て,
筆如流。         筆 流るるごとし。
十與二年,       十と二年,
裁賦隨時走,      賦を裁するに時に随って走(ゆ)き,
探勝尋幽。       勝を探り幽を尋ねり。
擅千鍾美禄,      ほしいままにす 千鍾の美禄,
三萬首詩愁,      三万首の詩愁,
曳杖邊州,       辺州に杖を曳き,
喜花稠。         花の稠(おお)きを喜べり。
  ○        
愛山河秀,       愛するは 山河 秀いで
詞華就,         詞華就(な)ること,
常厭舊,         常に旧を厭い,
數圖謀。         しばしば謀を図る。
言引咎,         言いて咎を引くも,
時運救,         時運 救い,
裸身留,         裸身 留まり,
句堪求。         句は求むるに堪えり。
草宿餐霞痩,      草宿 霞を餐(くら)って痩せるも,
未衰朽,         いまだ衰朽せず,
在浮舟。         浮舟に在り。
爲釣叟,         釣叟となり,
看水皺,         水の皺をなすを看(み),
仰天球。         天球を仰ぐ。
曠望江湖,       江湖を曠望するに,
樗散存長壽,      樗散に長寿存し,
景入雙眸。        景は双眸に入る。
暫聳肩搖吻,      暫く肩を聳やかして吻(くち)を揺らし,
韻事借鶯喉,      韻事 鴬の喉を借りて,
放唱悠悠。       放唱すること悠悠たり。

          (中華新韻八寒平仄両用の押韻)
<解説>
 拙作5万首目の記念作、「六州歌頭」でも詠んでみました。
 拙作5万55首目、漢詩を始めた1997年は9か月で55首しか詠んでいないので
 1998年1月から起算すればこの作でちょうど5万になります。

 「六州歌頭(賀鑄体)」の詞譜(『欽定詞譜』)は下載のとおりですが
 賀鑄は押韻が大好きな詩人のようで、前人は押韻していない句を敢えて押韻する
 という例を他の詞牌でも見ることができます。
 しかし、押韻大好き詩人の本領はこの「六州歌頭(賀鑄体)」で発揮されています。
 主たる押韻である平声の押韻16句のほかに、
 その押韻と同じ韻部の仄声の押韻(協韻)が18句あり
 全39句のうち34句が押韻句です。
 筆の針路が押韻に振り回され途方に暮れる思い少なからずで
 よい作にできたかという不満が一方にはあるものの
 ともかくも詠み終えた、という達成感にはなかなかのものがあります。

 六州歌頭 詞譜・雙調143字,前段十九句八平韻、八協韻,後段二十句八平韻、十協韻 賀鑄

  ●○●●,○●●○平。○○仄協○●仄協●○平,●○平。●●○○仄協○○仄協○○仄協○●仄協○○仄協●○平。○●●○,○●○○仄協●●○平。●○○●●(一四),●●●○平。●●○平。●○平。
  ●○○仄協○○仄協○●仄協●○平。○●仄協○●仄協●○平,●○平。●●○○仄協○●仄協●○平。○●仄協○○仄協●○平。●●○○,●●○○仄協●●○平。●○○○●(一四),●●●○平,●●○平。
   ○:平声。●:仄声。
   平:平声の押韻。(拙作は中華新韻八寒)
   仄協:平声の押韻と同じ韻部の仄声の押韻。(拙作は中華新韻八寒)
   (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,一・四に作る。

<感想>
 読んだ時に漢字の音読みで「-n」と終る字が次々に出て来て、最初「押韻が多いなあ」と思いましたが、よく見ると漢字の音読みは同じでも仄字の字が含まれていて、二度びっくりでした。
 解説していただいた協韻の面白さは中国語で聞くと面白さがストレートに直感できるのでしょうが、日本人にとっては知的な「くすぐり感」ですね。
 読み終えたこちらにも「達成感」を与えてくれて、感動です。

 その分、内容を忘れそうで(失礼)、読み下しで再度読み味わいました。

 2018. 2. 9                  by 桐山人


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四萬首選 一首

『漢詩を創ろう』投稿作 題『偶成百韵』

      百韵・苦學十六年,吟得四萬首詩詞  2013.06.02 -40000
            (「漢詩を創ろう」へ投稿)

   老骨爲騷客,     老骨 騷客(詩人)となり,
   苦學十六年。     苦學 十六年。
   吟得詩四萬,     吟じ得たる詩は四萬,
   啜盡盞八千。     啜り盡したる盞は八千。
   美酒滌腸肚,     美酒 腸肚を滌ぎ,
   醇醪洗肺肝。     醇醪 肺肝を洗ふ。
   醉魂張羽翼,     醉魂 羽翼を張り,
   綵筆走雲箋。     綵筆 雲箋を走る。

   正旦屠蘇酒,     正旦 屠蘇の酒,
   茅廬献壽筵。     茅廬 献壽の筵。
   荊妻化妝淡,     荊妻 化妝は淡く,
   野叟醉顔鮮。     野叟 醉顔は鮮やかなり。
   默默傾清聖,     默默として清聖(清酒)を傾け,
   悠悠佯散仙。     悠悠として散仙の佯(ふり)をす。
   曲肱堪午枕,     肱を曲げれば午枕に堪へ,
   瞑目擅鼻鼾。     瞑目して鼻鼾をほしいままにす。

   碧漢浮輕舸,     碧漢(銀河)輕舸を浮かべ,
   白頭泛清漣。     白頭 清漣に泛かぶ。
   風入行衣軟,     風は行衣に入りて軟らかく,
   日照嫩晴暄。     日は嫩晴に照りて暄なり。
   同伴嫦娥望,     同伴せし嫦娥の望むは,
   可惜春色妍。     惜しむべき春色の妍なるなり。
   櫻雲流靉靉,     櫻雲 流れて靉靉として,
   艷雪舞翩翩。     艷雪 舞って翩翩たり。

   河岸花星散,     河岸に花は星と散り,
   水心人瓦全。     水心に人は瓦全たり。
   紅唇含笑勸,     紅唇 笑みを含んで勸むれば,
   丹液滿杯甘。     丹液 杯を滿たして甘し。
   乘興押風韵,     興に乘って風韵を押し,
   寓情于景觀。     情を景觀に寓す。
   飛聲作啼鳥,     聲を飛ばして啼鳥となり,
   吟句伴鳴絃。     句を吟ずるに鳴絃を伴ふ。

       水心:流れの中心。
       瓦全:つまらない瓦となって残る。無駄に生きのびる。

   西送金烏落,     西に金烏の落つるを送り,
   東迎銀兎圓。     東に銀兎の圓(まどか)なるを迎ふ。
   黄昏到津渡,     黄昏 津渡に到り,
   青眼這飛船。     青眼 飛船を這(むか)ふ。
   旅館無塵慮,     旅館に塵慮なく,
   腰包有酒錢。     腰包に酒錢あり。
   對酌花貌艷,     對酌したる花貌 艷にして,
   浩飲皺顔談。     浩飲したる皺顔 談ず。

       飛船:船足の速い船。また、宇宙船。腰包:腰につける巾着。
       皺顔:皺だらけの顔。老人。

   回憶生涯苦,     回憶す 生涯の苦,
   宦游窮僻閑。     宦游したる窮僻の閑。
   鳳雛學漢字,     鳳雛 漢字を學び,
   麟子看書傳。     麟子 書傳を看(よ)む。
   立志晋京邑,     志を立てて京邑へ晋(すす)み,
   待機彈鉄冠。     機を待ちて鉄冠を彈く。
   揚眉且強志,     眉を揚げてまさに志を強くせんとし,
   受命欲圖南。     命を受けて圖南せんとす。

       窮僻:さいはての地。京邑:京都。
       鉄冠:剛直なる官吏の冠。
       彈冠:冠の塵を払って出仕の準備をする。

   正色將結綬,     色(顔色)を正してまさに綬を結ばんとするに,
   愛民宜養廉。     民を愛し宜しく廉(廉潔)を養ふべし。
   精勤惜短日,     精勤して短日を惜しみ,
   清痩似長杉。     清く痩せて長き杉に似る。
   拂曉期昇等,     拂曉 期するは昇等(昇進),
   戴星疲下班。     戴星を戴き 疲れて下班(退勤)す。
   城狐求利益,     城狐 利益を求め,
   社鼠齧王權。     社鼠は王權を齧る。

   飲酒滌腸肚,     酒を飲んで腸肚を滌(あら)い,
   憂國爲諫官。     國を憂いて諫官となる。
   秀才頻殉義,     秀才しきりに義に殉じ,
   奇士屡失言。     奇士しばしば失言す。
   一日爲謫宦,     一日 謫宦となり,
   三秋遠日邊。     三秋 日邊より遠し。
   早春無世務,     早春に世務なく,
   隔日問梅園。     隔日 梅園を問(たず)ぬ。

       謫宦:流刑の臣下。日邊:帝王の周辺。

   曲徑隨風進,     曲徑 風に隨いて進めば,
   横枝綴玉闌。     横枝 玉を綴って闌(たけなわ)なり。
   暗香流野店,     暗香 野店に流れ,
   雅客在桃源。     雅客 桃源にあり。
   緑酒芳樽盡,     緑酒 芳樽に盡き,
   黄鶯空谷遷。     黄鶯 空谷へ遷る。
   暮愁風寂寂,     暮愁 風は寂寂として,
   醉臉涙潸潸。     醉臉 涙 潸潸たり。

   朱夏多閑暇,     朱夏に閑暇多く,
   碧湖投釣竿。     碧湖に釣竿を投ず。
   垂綸玩細浪,     綸を垂れて玩ぶ細浪(さざなみ),
   盡日洗魚筌。     盡日 魚筌を洗ふ。
   鏡水鱗鱗映,     鏡水は鱗鱗として映ず,
   夕霞炳炳延。     夕霞の炳炳として延びたるを。
   歸途沈脚歩,     歸途に脚歩を沈め,
   門口仰孤蟾。     門口に孤蟾を仰ぐ。

       沈脚歩:足取りが重い。

   短夜無香夢,     短夜に香夢なく,
   長居聽杜鵑。     長居に杜鵑を聽く。
   清晨終悔過,     清晨 ついに悔過し,
   平午欲參禪。     平午 參禪せんとす。
   曳杖登石磴,     杖を曳いて石磴を登り,
   敲門對褊衫。     門を敲いて褊衫(僧侶)に對す。
   上堂求印可,     堂に上って印可を求め,
   虚己坐香蓮。     己れを虚しくして香蓮に坐す。

   解悶無良策,     悶えを解くに良策なく,
   念經紛亂蝉。     經を念ずるも亂蝉に紛(まぎ)る。
   飛聲鳴碧宇,     聲を飛ばして碧宇に鳴き,
   盡力落蒼巖。     力盡きて蒼巖に落つ。
   老叟求佳配,     老叟 佳配を求め,
   好逑違宿縁。     好逑 宿縁に違ふ。
   低迷不能忘,     低迷して忘る能はず,
   懊惱自矜憐。     懊惱して自らを矜憐す。

   徑路通塵界,     徑路は塵界へ通じ,
   酒旗催苟安。     酒旗は苟安を催(うなが)す。
   紅亭夕暮借,     紅亭の夕暮に借る,
   朱臉醉郷霑。     朱臉の醉郷に霑ふを。
   清聖催靈感,     清聖 靈感を催し,
   吟翁聳痩肩。     吟翁 痩肩を聳やかす。
   月明蛩雨洗,     月明るく蛩雨は洗ふ,
   人撰韵脚先。     人は撰ぶに韵脚を先とするを。

   拂面新涼好,     面を拂(な)でて新涼好し,
   飛聲吟歩寛。     聲を飛ばして吟歩寛なり。
   斷章乘興詠,     章を斷ち興に乗って詠ずるに,
   摘句擬唐完。     句を摘み唐に擬して完(まっとう)す。
   却老舌流暢,     老いを却(しりぞ)けて舌は流暢,
   如斯話尚連。     斯くのごとく話なお連ぬ。
   通宵傾緑酒,     通宵 緑酒を傾け,
   向曙仰青天。     向曙 青天を仰ぐ。

       向曙:破曉。

   積氣蒙溟海,     積氣 溟海を蒙(おお)い,
   明星疎曉山。     明星 曉山に疎なり。
   鷄鳴破春夢,     鷄鳴いて春夢を破り,
   人醒起茅庵。     人醒めて茅庵に起く。
   神媛乘雲去,     神媛(仙女)雲に乘って去り,
   老骸傷感瞻。     老骸 感を傷(いため)て瞻(みあ)ぐ。
   蒼穹飛過雁,     蒼穹に過雁飛び,
   白首動吟髯。     白首 吟髯を動かす。

       積氣:積み重なった大気、天。

   重振精神坐,     精神を重ねて振って坐し,
   再興醉夢殘。     再興す 醉夢の殘(そこな)はれしを。
   明窗机案淨,     明窗に机案 淨らかに,
   暗恨道心曇。     暗恨に道心 曇る。
   吐氣排幽悶,     氣を吐いて幽悶を排し,
   吸風愛自然。     風を吸って自然を愛す。
   游魂携筆墨,     魂を游ばするに筆墨を携え,
   浮想跨瀛寰。     想を浮かべて瀛寰を跨ぐ。

       重振精神:気をとり直す。

   獨坐飛機伴,     獨り坐る飛機(飛行機)の伴ふは,
   群翔羽客環。     群れ翔んで羽客の環(めぐ)りをるなり。
   巴黎華館聳,     パリに華館聳え,
   倫敦古城堅。     ロンドンに古城堅なり。
   羅馬尋遺跡,     ローマに遺跡を尋ね,
   北京迎玉盤。     北京に玉盤(滿月)を迎ふ。
   ■鴨眞美味,     ■鴨 眞に美味にして,     ■:火考
   老酒促香甜。     老酒 香甜を促す。

       香甜:香味と甜味。睡って心地よい状態を形容する。

   比薩瞻斜塔,     ピサに斜塔を瞻(みあ)げ,
   柏林爲酒癲。     ベルリンに酒癲となる。
   紐約吃漢堡,     ニューヨークにハンバーガーを吃(く)い,
   上海抱糟壇。     上海に糟壇(酒壺)を抱く。
   處處傾清聖,     處處に清聖(清酒)を傾け,
   頻頻作醉猿。     頻頻として醉猿となる。
   歸國醒蝶夢,     歸國すれば蝶夢醒め,
   仍舊探春烟。     仍舊(いつものように)春烟を探る。

   青柳板橋畔,     青柳 板橋の畔(ほとり),
   紅梅水驛前。     紅梅 水驛の前。
   佳人賣醇酒,     佳人 醇酒を売り,
   美祿涌清泉。     美祿(美酒)清泉に涌く。
   眼底江如鏡,     眼底(眼前)に江 鏡のごとく,
   杯中詩造端。     杯中に詩 端を造(な)す。
   舒情順聲律,     舒する情 聲律に順ひ,
   走筆似■涎。     走らす筆 ■涎(ナメクジ)に似る。  ■手偏に施-方

       造端:ものごとの最初となる。そこから始まる。

   酩酊韵脚萎,     酩酊して韵脚萎え,
   難得聲病痊。     得がたし 聲病の痊(いえ)るを。
   嘆息辭野店,     嘆息して野店を辭し,
   醉歩下河沿。     醉歩して河沿(河岸)を下る。
   高踏脱塵網,     高踏 塵網を脱し,
   低徊在墓田。     低徊して墓田(墓苑)にあり。
   歸途迷近道,     歸途 近道に迷い,
   月下歩横阡。     月下 横阡(田のあぜ)を歩む。

   露宿酒徒慣,     露宿するは酒徒の慣(ならい),
   風餐詩客歡。     風餐するは詩客の歡(よろこび)。
   九州多勝地,     九州に勝地多く,
   四海有文瀾。     四海に文瀾(文章の波瀾)あり。
   愛唱李白句,     愛唱す 李白の句,
   高吟杜甫聯。     高吟す 杜甫の聯。
   詩名垂後世,     詩名は後世に垂れ,
   瀑布挂前川。     瀑布は前川に挂かる。

   盛夏逃涼蔭,     盛夏 涼蔭に逃れ,
   旗亭借醉顔。     旗亭に醉顔を借る。
   秋來菊怒放,     秋來たれば菊は怒放し,
   老去我歸還。     老い去りて我は歸還す。
   緑蘚虫聲切,     緑の蘚(こけ)に虫聲切に,
   蒼旻雁語酸。     蒼き旻(そら)に雁語酸たり。
   清貧宜少好,     清貧 よろしく好むを少なくすべく,
   晩境數凭欄。     晩境 しばしば欄に凭(よ)る。

   游目玩湖水,     游目して湖水を玩び,
   亡羊仰暮檐。     亡羊として暮檐を仰ぐ。
   虚空彩酣紫,     虚空 酣紫(濃い紫)に彩られ,
   散士念幽玄。     散士 幽玄を念(おも)う。
   有感裁詩賦,     感ありて詩賦を裁し,
   無他佯蔽賢。     他なし 蔽賢の佯(ふり)をす。
   心中生妙想,     心中に妙想生じ,
   塵外挂孤帆。     塵外に孤帆を挂く。

       暮簷:日暮れの軒。無他:他でもなく。
       佯蔽賢:賢(徳・才能)を隠す賢者といつわる。ふりをする。

   辭海稀航路,     辭海に稀れなる航路,
   士林多剩員。     儒林に多き剩員。
   才徳失秩序,     才徳 秩序を失い,
   文藝要聲援。     文藝 聲援を要す。
   燈下時三鼓,     燈下に時は三鼓,
   茅齊詩百編。     茅齊に詩は百編。
   沈沈窗雪舞,     沈沈として窗雪舞い,
   卷卷醉眸旋。     卷卷として醉眸旋(まわ)る。

   取暖傾杯坐,     暖を取るに杯を傾けて坐し,
   祭詩擱手刪。     詩を祭るに手を擱(つか)ねて刪(けず)る。
   睡魔斟美祿,     睡魔 美祿を斟み,
   暗鬼擅欺瞞。     暗鬼 欺瞞をほしいままにす。
   幸對花容笑,     幸いにも花容の笑ふに對するも,
   未排障惱煩。     いまだ障惱(碍となる悩み)の煩しきを排せず。
   鐘聲停破曉,     鐘聲 破曉に停(や)み,
   樗叟醒三元。     樗叟 三元に醒む。

       擱手:腕をくむ。障惱:碍となる悩み。

          (中華新韵八寒平声の押韻)

<解説>
 漢詩を作り始めてから16年と2か月になりますが、詩・詞・曲のほか現代短詩のさまざまな詩体に挑戦し、拙作4万首を超えました。
 詩は8000首、詞曲11000首、漢俳ほかの現代短詩が21000首で、詩体の数では、主に詞曲を中心におよそ2500詩体になります。

 さて、拙作は、4万首を機に、初心に帰りたいという思いがあり、これまでに詠んだことのない百韵に挑戦してみることにしたものです。
 百韵に要した日時は10日。作っている間に構想上の欠陥に気が付いたり、とはいえ引き返すこともできずで中断したりで、苦吟しました。
 私が最初に詠んだ七言絶句は、作るのに2週間近くかかりました。詩語辞典の存在を知らず、漢和辞典一冊だけがたよりだった、ということもありますが、10日という苦吟は、それ以来のものです。
 そして、10日もかけて、とにかく何とか目的を達成した、というところです。
 初心に帰りたい、という気持ちは、初めて絶句を詠んだときの苦吟を思いだすことができた、という形でも目的を達しました。
 そのようなことで、作者としては、作品の出来はともかく、大変満足しています。


<感想>
 全唐詩を見ると、中唐のあたりから百韻の詩や二十韻、四十韻、五十韻などが見られ、白居易なども作詩していますね。
 五言で隔句韻ですから合計で二百句、同じ韻字を使わないのは勿論、用語も重複を避けるわけですから、語彙力や構成力なども求められるもの。何となく力わざの趣もありますね。

 実は読む方も気力を高めないと辛い面もありますが、鮟鱇さんのこの百韻はそれほど力まずに読ませていただけました。
 八句ごとに切れ目を入れて下さったのが、古詩の換韻のような感じで、ブロック単位で眺められたおかげかもしれませんし、作詩の過程でもきっと、八句を基準単位にして作られたのでしょうね。

 2013. 7. 9                  by 桐山人

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三萬首選 2首

『漢詩を創ろう』投稿作1首 他1首

   六州歌頭・吟得三萬首詩詞    2009.12.20 -3042

人無譽聞,    人に誉聞なく,
晩境有清游。   晩境に清遊あり。
傾緑酒,     緑酒を傾け,
交紅友,     紅友と交わり,
坐金秋,     金秋に坐し,
擧白頭。     白頭を挙ぐ。
靈液洗塵垢,   霊液 塵垢を洗い,
滲肌肉,     肌肉に滲み,
風入袖,     風 袖に入り,
雲涌岫,     雲は岫に涌き,
聲出口,     声は口を出て,
筆如流。     筆 流るるごとし。
十與二年,    十と二年,
裁賦隨時走,   賦を裁するに時に随って走(ゆ)き,
探勝尋幽。    勝を探り幽を尋ねり。
擅千鍾美禄,   ほしいままにす  千鍾の美禄,
三萬首詩愁,   三万首の詩愁,
曳杖邊州,    辺州に杖を曳き,
喜花稠。     花の稠(おお)きを喜べり。
    ○      
愛山河秀,    愛するは 山河 秀いで
詞華就,     詞華就(な)ること,
常厭舊,     常に旧を厭い,
數圖謀。     しばしば謀を図る。
言引咎,     言いて咎を引くも,
時運救,     時運 救い,
裸身留,     裸身 留まり,
句堪求。     句は求むるに堪えり。
草宿餐霞痩,   草宿 霞を餐(くら)って痩せるも,
未衰朽,     いまだ衰朽せず,
在浮舟。     浮舟に在り。
爲釣叟,     釣叟となり,
看水皺,     水の皺をなすを看(み),
仰天球。     天球を仰ぐ。
曠望江湖,    江湖を曠望するに,
樗散存長壽,   樗散に長寿存し,
景入雙眸。    景は双眸に入る。
暫聳肩搖吻,   暫く肩を聳やかして吻(くち)を揺らし,
韻事借鶯喉,   韻事 鴬の喉を借りて,
放唱悠悠。    放唱すること悠悠たり。

          (中華新韻「七尤」平声と仄声の押韻)
<解説>
 小生,今年(2009年)は,漢語の俳句などを含め3100首の詩詞を作り,12月に拙作の漢詩,3万首を超えました。
 漢詩を始めて13年,1998年の1月1日から数えれば12年で3万首です。
 多分,先人の例を含めわが国では有数の多作だと思います。
 私の多作はひとえに,平仄を血肉とし,韻律の呪縛から自由になりたい,と思い,詩作に勤めた結果ですが,それも3万首ともなると,天賦の詩才に必ずしも恵まれずとも,かなりの水準の詩が作れる,という自信が生まれてきます。
 どのような自信かといえば,韻律の呪縛から自由になり,これからは筆の赴くままに詩を作ることができるという自信であり,そのようにして作った詩であれば,あの世で李白に会ったとしても,臆することなく拙作を李白に読んでもらえるだろう,という自信です。
 拙作「六州歌頭」は,李白に見せても恥ずかしくないレベルの作です。李白も,東の果ての辺境の蛮族の男が,千年以上の時を経た後もなお詩詞の韻律をほしいままにしていることを知れば,きっとびっくりするでしょう。それが楽しみ。

 さて,その「六州歌頭」ですが,押韻についていくつか体があるなかで下記詞譜に示すものは,押韻箇所が多く,骨が折れます。
 全143字のうち,平韻16箇所,仄韻18箇所,計34箇所で押韻します。作りにくい三字句が多用されているうえに,そのほとんどで押韻をするので大変,でも,その分,作りがいがあります。三万首の卒業記念にふさわしいと思い,挑戦しました。

 六州歌頭詞譜(新編実用規範「詞譜」姚普編校 による)
  △○●●,▲●●○☆。○△★,○▲★,●○☆。●○☆。▲●△○★,△○★,○△★,△△★,○△★,●○☆。▲●△○,▲●○○★。▲●○☆。●▲○△●(一四),▲●●○☆。▲●○☆。●○☆。
  ●○○★(一三),△○★,○△★,●○☆。△△★,○△★,●○☆。●○☆。▲●○○★。△△★,●○☆。○△★,○△★,●○☆。▲●○○,▲●○○★,▲●○☆。●△○▲●(一四),▲●●○☆。▲●○☆。

 ○:平声。●:仄声。
 △:平声が望ましいが仄声でもよい。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
 ☆:平声の押韻。
 ★:平声と同韻部の仄声の押韻。
 (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,一・四に作る。その一は領字。
 (一三):前の四字句は,上二下二ではなく,一・三に作る。その一は領字。

<感想>
 韻律の束縛から自由になりたい、という鮟鱇さんの願いは、平仄で遊ぶことから始まったのだと思います。
 鮟鱇さんとはこのサイトの最初の頃からのお付き合いなのですが、最初にお手紙をいただいたのが1998年の12月、その時にはもう「鮟鱇30韻」に載せましたが、平声30韻全てで作詩をするなど挑戦をなさっていて、すごいエネルギーを持った方だなぁと驚くとともに、どの詩でも必ず一ヶ所は独自に光らせるところを持っていらっしゃり、詩人として尊敬させていただいています。

 「遊ぶのならもっと面白く」、「もっと楽しい遊び方はないか」という子どものような遊び心、これが鮟鱇さんの原点だろうと思いますが、「詞」や「漢俳」の作詩、「中華新韻」の使用など、これまでの伝統漢詩から抜け出せない私(たち)を一気に置いてけぼりにして、もう3万首、山のそのまた向こうの山、もう見通すこともできないような遠くまで走って行っちゃったような気がしますね。

 でも、今回の詩を拝見しても「子どもの遊び心」はまだまだ健在のようですから、この先、どんな漢詩の世界を見せてくれるのか、とても楽しみです。

 記念の数字突破、おめでとうございます。

 2010. 1.25                  by 桐山人


      鶯啼序・吟得三萬首詩詞  2009.12.15 -3000

  騷人好學韻事,買千鍾美酒,盈玉盞、洗盡塵胸,醉揮禿筆乘勢。十二歳、寒齋夢想,雄才大略鴻鵠志。正大鵬張翼,隨風萬里飛逝。
  春賞櫻雲,碧空紅雪,化胡蝶振翅。傾午酒、游目山光,片時裁賦三四。競啼鶯、聲高巧囀,搖唇吻、放歌狂恣。夏天長、埀釣山湖,無端生痔。
  秋聽蛩雨,獨啜濁醪,愁知年月駛。回憶處、無功受禄,棄道依術,賣友求榮,飾言阿世。城狐集黨,社鼠成群,重財輕義貪公益,養家族、容貌眞相似。披襟懺悔,仰看皎皎嫦娥,淋浴銀波知恥。
  黯然嘆氣,轉換心情,漸假装高士。坐淨案、排非求是,触目傷心,積善成德,憂國起誓。詩魔有意,彈琴陪侍。華辞盛涌錦嚢破,染紅箋,香墨生金字。冬得三萬詩詞,鐘語殷殷,老殘食柿。

  騷人よく韻事を学び,
  買うは千鍾の美酒,
  玉盞に盈ち、塵胸を洗い尽くし,
  醉って禿筆を揮って勢いに乗る。
  十二年、寒齋に夢想す,
  雄才大略 鴻鵠の志。
  正に大鵬は翼を張り,
  風に随い萬里に飛び逝く。

  春に櫻雲を賞(め)でれば,
  碧空の紅雪,
  胡蝶の振翅(はね)を振るうと化す。
  午酒を傾け、山光に目を遊ばせ,
  片時 三四の裁賦。
  啼鶯の、声高く巧みに囀るのと競い,
  唇吻を揺らし、放歌狂恣。
  夏天長し、山湖に垂釣(つり)をして,
  端なくも痔を生ず。

  秋に聽く蛩雨,
  獨り啜る濁醪,
  愁い知る 年月の駛(は)せるを。
  回憶するところ、功なく禄を受け,
  道を棄てて術に依り,
  友を売って栄を求め
  言を飾って世に阿(おも)ねたり。
  城狐は党に集まり
  社鼠は群を成し,
  財を重んじ義を軽んじて公益を貪り,
  養う家族は、容貌まことに相い似たり。
  襟を披(ひら)いて懺悔し,
  仰ぎ看る 皎皎たる嫦娥の,
  銀波を淋浴(あび)て恥を知る。

  黯然として嘆氣(ためいき),
  轉換心情(気を取り直して),
  漸く高士の假装(ふり)をす。
  淨案に坐し、
  非を排して是を求め,
  触目傷心,
  積善成德,
  国を憂いて誓いを起(た)つ。
  詩魔に意あり,
  琴を弾いて陪侍す。
  華辞 盛んに涌いて錦嚢を破り,
  紅箋を染め,
  香墨 金字を生ず。
  冬に得たり 三萬の詩詞,
  鐘語 殷殷として,
  老殘 柿を食す。

鶯啼序詞譜:(新編実用規範「詞譜」姚普編校 による)

  ○○●○●●,●○○▲★(一四)。▲△●、▲●○○,●▲▲●○★。▲△●、○○●●,○○●●○○★。●▲○△●(一四),△○▲▲○★。
  ▲●○○,▲▲▲●,●△○▲★(一四)。△△●、▲●△○,△○○▲△★。●○○、△○●●,▲△●、△○○★。●△○,▲●△○,▲○○★。
  △○▲●,▲●△○,△○△●★。▲●●、▲○△●,▲●○●,●●○○,●○▲★。△○▲●,○○▲●,△○▲●○○●,●△○、▲●△○★。○○●●,△△▲●○○,▲▲▲▲○★。
  △○▲●,▲●○○,●●○△★(一四)。●▲●、△○▲★。●●○○,▲●○○,▲○▲★。○○●●,○○○★。△○▲●△△●,●○○,▲●○○★。△○▲●○○,▲●○○,●○△★。

 ○:平声。●:仄声。
 △:平声が望ましいが仄声でもよい。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
 ★:仄声の押韻。(拙作は中華新韵十三支仄声の押韻)
 (一四):その前の五字句を一・四に作り,上一を領字とする。


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二萬五千首

『漢詩を創ろう』投稿作

  [仙呂]醉扶歸・吟得二萬五千詩所懷   2008.07.15 -2231

樗散呻吟致,      樗散 呻吟して致す,
二萬五千詩。      二萬五千の詩。
我不是詩龍醉未知,   我は詩龍にあらず 醉ひて未だ知らず,
酒虎吟將嗜。      酒虎吟じ將に嗜まんとするを。
尚有前途埋麗詞,    尚ほ前途の麗詞を埋むる有らば,
更揮禿筆求押字。    更に禿筆を揮ひ押字するを求めん。

          (中華新韻「十三支」の押韻)
<解説>
「樗散」:役立たず。
「詩龍」:詩に達者な人。
「酒虎」:酒に虎となる人。
「麗詞」:美しい言葉。
「禿筆」:使い込んでちびた筆。
「押字」:押韻

 漢詩を作り始めて11年と3か月になりますが、このたび作詩数2万5000首を超えました。
2万を超えたのが2006年の7月ですので、1年2500首がこのところのペース、ちなみに今年は、漢俳・灣俳が多いのですが、6月までに2000首を作っています。律詩・絶句・詞曲が約800、漢俳・灣俳など短詩が約1200。
 これらの作の99%は、四字成語に取材した習作です。平仄・押韻で苦労することは今はほとんどありませんが、小生の詩想の貧苦は補いようがありません。そこで四字成語に取材し、語彙を増やす努力を今はしています。

 さて、2万5000首超のマイルスト-ンとして作った拙作は、「曲」ですが、元代の「中原音韵」ではなく、中華新韻で作っています。
なお、元代の「中原音韵」は、入声が完全に消滅しているなど、現代の中華新韻とあまり変わりがありません。
 また、拙作「詩」が重字となっていますが、曲はそれを忌むものではありません。

 わが国の詩歌では、俳人は俳句、歌人は短歌という具合で、ある種タコ壺的一所懸命主義がはびこっていると思っています。これに対し、日本人が作れる詩歌はそれだけはない、ということをアピールするために、漢詩の韻律がもつ詩的生産性の高さを示したい、ということが小生の詩作の大きな原動力になっています。
 一所懸命にやればいい作品が作れるというのは、とかく専門バカを生み出してしまう日本の文化と教育が抱く幻想ではないか、と小生は考えています。
 「一所懸命にやればいい作品が作れる」という発想は、いい作品を作ること(さらには作品の優劣を競うこと)を、無批判に目的としています。

 詩を作ることには、喜びがあります。しかし、その喜びが、句誉や歌誉を求める一所懸命主義のもとで矮小化されている、そういうところが日本の詩歌作りにはある、と小生は思うわけですが、「我不是詩龍醉未知,酒虎吟將嗜。」は、そのようにして詩人は詩、酒徒は酒に一所懸命であるべきである、という固定観念に酔い痴れている日本の詩歌の一所懸命主義への、Nonを述べたつもりです。

 一所懸命主義の固定観念を打ち破ること、詩を作る者にとっての詩的豊穣を再び復活するための破壊、私はそれを、詩を作る当面の目標としています。

<感想>
 鮟鱇さんは以前、陸游が生涯に作ったと言われる二万首が目標だと仰っておられましたが、あっという間に超えてしまいましたね。「あっという間」というのは他人が見てのものですので、ご本人には長い年月だったのかどうか、それは分かりません。
 鮟鱇さんは常々「詩才が無い」と謙遜しておられますが、毎日七首か八首を作り続けなくてはいけないペースですので、まずは作り続けることのできることが誰にも真似の出来ない「才能」の一つだと思います。

 日本の詩歌は、平安の昔から身内サロンでの文芸スタイルを守っているわけで、芭蕉が「象潟や雨に西施がねぶの花」と詠んだ時には、すくなくとも自分の俳句の読者として、「西施」を知っている人、もっと言えば蘇軾の詩を知っている人を想定しているわけです。
 作者と読者が教養基盤を共有する「場」での知的創作はスリリングでもあり、一体感を抱くことの出来るものでもあり、そのこと自体はまさに文芸の楽しみでもあると思います。
 しかし、一方ではそれは「箱庭」的集団意識を醸成し、鮟鱇さんの言われる「タコ壺」的な要素を産み出していることも否定できません。

 「詩を作ることには、喜びがある」と書かれた鮟鱇さんの「尚有前途埋麗詞」の句には、詩人の希求する根源的なものが端的に描かれていると思います。

 2008.10. 3                 by 桐山人


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二萬首

      九年吟得二萬首詩詞     2006. 7.29 -1992

  詩魔一日抱琴來,  詩魔 一日 琴を抱きて来たり,
  附體田翁乏雅才。  田翁の雅才の乏しきに附体(のりうつ)れり。
  落戸九年教韵事,  落戸(住みついて)九年 韻事を教へ,
  侑觴八斗洗塵埃。  侑觴(觴をすすめて)八斗 塵埃を洗ふ。
  尋幽随處景堪賞,  幽を尋ぬれば随処に景は賞(め)づるに堪へ,
  覓句含情聯自排。  句を覓むれば情を含んで聯自ずから排(なら)ぶ。
  莫笑老殘吟不厭,  笑ふ莫れ老残 吟じて厭(あ)きず,
  聳肩高唱坐棺材。  肩を聳やかして高唱し棺材に坐りをるを。

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一萬首
『漢詩を創ろう』投稿作

  覓句七年吟得一萬首詩詞     2004. 1.29 -0528
              (「漢詩を創ろう」へ投稿)

搖吻七年詩一萬,   吻(くち)を揺らして七年 詩一萬、
聳肩三唱思無邪。   肩を聳やかして三唱すれば思いに邪なし。
好學雅韵都習作,   雅韵を好く学ぶもすべて習作なりと、
莫笑凡才吟不歇。   笑うなかれ 凡才の吟じて歇(や)まざるを。

          (普通話韵「四皆」の押韻)
<解説>
 普通話韵(現代韻)で書いています。「学」「習」「歇」は平水韻では入声すなわち仄声ですが、現代韻では平声になります。承句の「思無耶」は現代韻では下三連になりますので避けるべきですが、1声の三連ではない(思(1声)無(2声)邪(2声))ので、まあ許されるかと思っています。
 なお拙作、前対格の句作りで起句・承句を対にしていますので、起句は韻を踏んでいません。

 わたしが詩を書くようになって今年の4月でまる7年になりますが、これまでの作詩数、1万首になりました。詩は2000弱、詞曲が5000弱、漢俳が約1500、あとは中山新詩で、ともかく1万です。
 詩は数を書けばできのよい詩が書けるようになるものではないのでしょうが、韻・平仄に苦労することはほとんどなくなりました。あとは、詩想のよしあし、しかし、こればかりはこれまでわたしがこれまでどう生きてきたか、何を思い生きてきたかによることが大きく、いまさら自由にはなりません。わたしは凡庸に生きています。凡庸に生きるなかから、人の心を強く動かすような詩想が生まれてくると考えるよすがはありません。

 しかし、韻を学び平仄に慣れる、これはどのような凡人、わたしのごとき凡才にもできることです。その意味で「詩は誰にでも書ける」のです。わたしが書いた7年1万首の詩詞、その99%は韻を学び平仄に慣れるために、ともかくも書いたものです。つまりは習作です。
 1万の詩詞、その全てをわたしが読み返すことはこれから先、きっと無いでしょう。読み返すことはない、即興とはあるいはそういうものかとも思います。たとえば漢俳、1日に50首ぐらいは書けます。去年の12月には670首の詩詞・漢俳を書き、今年の1月は600首。そういう状況では、きのう書いた作を覚えてはいません。即興は忘却とともにあります。しかし、それはそれで、詩を書くよろこびの一面です。僭越ですが、詩を書いては湖に投げたという李白の所業、即興の楽しみが、いくらかわかるようになったと思えます。

<感想>
 七年間で一万首、もう陸游の作数の半分にたどり着いたのですね。以前、鮟鱇さんは陸游の数が目標だと仰っていましたが、何年かかるのかなぁと私は遠い先のことと思っていました。
 でも、どんどんペースアップしてるようですし、到達はそんなに遠くないような感じがしますね。

 以前にも書きましたが、詩の上達の要である「三多」は、「多読」「多作」「多商量」とされていますが、その「多作」が一万を超えるとやはり別世界が見えてくるのではないでしょうか。
 そうは思えどもでは自分は、となるとなかなか実際には取り組めないのが現状ですが、徹することのできる鮟鱇さんの快挙(ご本人はまだ旅の途中なのでしょうから、適切な言い方ではないかもしれませんが)にただただ祝意と敬意を払いたいと思います。

  2004. 4.15                 by junji


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八千首

『漢詩を創ろう』投稿作

  六年吟得八千首詩詞     2003. 8. 1 -0800
            (「漢詩を創ろう」へ投稿)

一見鍾情酒到臍,   一たび見れば情を鍾あつめて酒は臍に到り,
六年合意八千詩。   六年 意を合あつめて八千詩。
花前月下無名利,   花前月下に名利なく,
惟有騒人吟未疲。   惟だあり 騒人 吟じて未だ疲れず。

          (上平声「四支」の押韻)
<解説>
 小生、今年に入って800首目、そのマイルストーンとして書いたものです。

 杜牧が死んだのが数えの50歳、小生が漢詩を書き始めたのが満で50歳と数カ月、以来6年と数か月になります。いってみれば、晩学の閑人が、漢詩の小学校の学習を遅ればせながらに終えて、中学に進学したところです。
 これまでに書いた詩詞(唐詩の絶・律、古詩、宋詞、元曲、漢俳・漢歌、曄歌・坤歌・瀛歌・偲歌)は8000を超えました。1997年に50首、98年に430首、99年に1400首、2000年に1320首,2001年に1550首,2002年2720首、そして今年はこの作で800首です。

 詩はもとより数ではありません。しかし、先天的な才能や個人によって多いに開きのある豊かな経験や感性をあてにしないで書くとしたら、詩はまず数です。たくさん書いて平仄と韻に慣れないことには詩は始まらないだろうと小生は信じています。
 詩がもとより数ではないことは古来多くの人が説いています。しかし、そういう大家主義の詩作りは小生のごとき凡才の選ぶ道ではなく、小生は、そこで、1万首に届くまでの作はすべて「習作」とすることにしています。「詩言志」という言葉がありますが、大鵬の志を知らない燕雀の立場からは、そういう「詩」をめざす前にやらなければならないことがあります。つまり、「詩」を書くのではなく「習作」を書くこと。

 [語釈]
「合意」 :思っていることを詩などに作りあげるという意があるようです。
「花前月下」 :花前も月下も男女が情を交し合うのによい場所とされています。
「騒人」  
:詩人。「風騒」の語に見るように「風」「騒」ともに詩文を意味します。
「騒」に下品に騒ぐ意味はありません。
「風人」にしようか「騒人」にしようか迷いましたが、拙作の場合、「吟未疲」と結んでいますので、「騒人」とすれば「騒がしい」の意も出せて面白いかと思い、「風人」ではなく「騒人」にしました。
「一見鍾情」 :一目ぼれ。わたしは漢詩に一目ぼれでした。
<感想>

 押韻は現代韻でしょうか。「臍」(qi 2)は平水韻ならば上平声八斉ですが、「詩」(shi 1)と「疲」(pi 2)ですね。
 鮟鱇さんは以前に陸游の二万首のことを書いておられましたが、ペースとしては十分追い上げが可能になってますね。すばらしいことです。

 詩は数ではない、確かに、世に残るもの一首でも詩人として歴史に名を残している人も沢山います。また、苦吟を重ね、推敲を重ね、一首に全霊と歳月を傾けて作り上げられた詩もあるでしょう。それは人それぞれの目指すものだと考えれば良いのだと思います。

 それよりも何よりも、私は鮟鱇さんの感受性の豊かさに感服します。
 詩を作るためには主題がなくてはなりません。その主題は、自身の外であれ内であれ、まず何かに心を動かされるところから生まれます。鮟鱇さんは、「志」よりも「言」を優先させているように仰っておられますが、八千の詩には八千の作者の思いがあるでしょう。
 日々の生活の中での感動を大切にしていらっしゃるからこその積み上げ、その感動の数にこそ重みがあると思います。
 日頃の雑事に紛れて作詩をさぼっている私は、全く反省しきりです。

 2003. 8.29                 by junji


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